複数胚移植で生まれた双子の少女の写真です。

なぜ不妊治療で多胎妊娠が多くなるのか、気になる不妊治療と双子妊娠の関係を調べました。

実際私も2つ卵を子宮に戻して二卵性の双子を妊娠していますが、もし2個の胚を移植した場合、多胎妊娠になる確率はどれくらいまで上がるのでしょうか。

また多胎妊娠の何が危険なのか、現在の日本ではどれくらいの双胎児率なのか、都道府県別の多胎出生割合などをまとめました。

今後の不妊治療における方針を考える際に参考になればと思います!

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IVF-ETで胚を2個移植した場合の双子確率とは?

IVF-ETとは、体外受精-胚移植のことで、卵子と精子を体外で受精させ、受精卵(胚)を子宮腔に移植することを言います。

その場合、通常は卵子をたくさん採取するために、高刺激や低刺激など様々な方法で「調節卵巣刺激を行なうことが多くなっています。

その結果、複数胚を得られた場合、「一度にいくつの胚を子宮に戻すか」という選択肢が出てきますよね。

基本的にはひとつの胚を戻す決まりですが、場合によっては3つまで胚を戻すことが出来ます。

では胚をふたつ戻せば単純に「二卵性の双子」になるのでしょうか?


体外受精(IVF)による妊娠7,000例を分析した英国の最近の統計では、1個だけの胚を移植したときには多胎妊娠率は5%未満で、そのうち三つ子の確率は約1%と示されています。

これは、自然な多胎妊娠の確率と変わりません。

2個の胚が移植されると双子を妊娠する確率は25%にまで増えますが、三つ子の妊娠率は変わりません。



2つの胚を戻すと1/4の確率で双子になる?

これは確率なので、全員に当てはまるわけではありません。

胚の「質」の良し悪し、つまり受精卵の生命力によって異なるので、当然ですが複数胚移植で双子になるかどうかは個人差があります。

双子になる確率をざっくり計算してみると…

  • 着床率20%の受精卵を2個移植した場合には、20%×20%=4%
  • 着床率30%の受精卵を2個移植した場合には、30%×30%=9%


実際はこんなにスッキリ分かりやすいわけではありませんが、もし胚の着床率が分かったとしたら、理屈はこうなります。

受精卵の質によって着床率が10%のものや、60%のものもあるでしょうから、その場合は着床率の良かった胚だけが妊娠に至って、単胎妊娠になることの方が多くなるわけですね。


良好な受精卵を1個のみ移植した場合の着床率(括弧内は流産率)

〜30歳約40%以上(約13%)
31~33歳約40~35%(約15%)
34~36歳約35~30%(約16%)
37~38歳約30~20%(約18%)
39~40歳約20~15%(約25%)
41~42歳約10~5%(約30%)
43歳~約5%以下(約40%)



妊娠率についてはこちら。


自然界で双子の産まれる確率

二卵性双生児の発生率は人種差があります。また、遺伝や加齢によるホルモンの影響で多排卵になることでも増加します。

その上で、日本で自然に二卵性双生児になる割合は、1000組に6組と言われています

一卵性双生児は「偶然の産物」であり、昔から人種に関わりなく、世界共通で1000組に3~4組の割合で誕生していいるそうです。

しかし体外受精や顕微鏡受精などによる生殖補助医療(ART)では、約3%の頻度で一卵性双胎が発生するとされています。

なぜ一卵性双生児の割合が増えるのか、そのメカニズムは解明されていません。

つまり、IVF-ETで2個しか胚を移植しなかったのに「品胎になる」ことも有り得るということです。

このように複数胚移植を選択するということは、双子以上にハイリスクな結果になる可能性を肝に銘じる必要があります。


双子についてはこちら。


私が卵をふたつ戻した理由

私の場合は、凍結胚の融解時トラブルで、手術当日に急遽ふたつ戻すことになりました。

そのため、複数胚を戻すことによるリスクに関しては、熟考する暇がなかったのが正直なところです。

結果として、ふたつとも着床する力を持った胚だったため、二卵性の双子を宿すことになったのですが、実際に妊娠してみて「多胎妊娠が全ての面でハイリスクである」のは、紛ごうことなき事実だと実感しております。。。


そのため、複数胚移植を手放しでお勧めできるか? といえば「NO」になります。

しかし私のような事情があった場合や、それぞれの不妊症状の程度や年齢による妊娠力によっては、複数胚移植は有効な手法です。

以下で紹介する単胚移植と複数胚移植の違いを確認し、担当医とよく相談して、リスクを理解したうえで行う分にはアリだと思います。


胚移植のトラブルについてはこちら。

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体外受精で多胎妊娠が多いと思われている原因

一般の方のイメージで、双子 ≒ 不妊治療という図式が浸透していますよね。

実際私も「双子を妊娠した」と言うと、たいてい「遺伝?」と聞かれ、その次は「不妊治療?」と聞かれます。(そして内心「ほっとけよ」と思います。笑)

その理由としては、過去の体外受精での「胚移植のルール」が現在と違うために、多胎妊娠が多く発生していた時期があったためです。

昔は複数胚移植が標準治療だった

体外受精や顕微鏡受精などによる生殖補助医療(ART)が一般的になるより以前は、日本の多胎妊娠分娩の総数はほぼ一定を保たれていました。

しかし、生殖補助医療が全国で普及するにつれて、生殖補助医療(ART)による多胎妊娠が増加し、2005年には不妊治療で生まれた児の30%近くにまで達したのです。

日本では既に、1996年には移植する胚の数を3個までに制限していましたが、それは多胎妊娠の歯止めにはなりませんでした。

当時は体外受精や顕微鏡受精で複数個の胚移植を行うことがスタンダードであったため、日本で多胎妊娠が増え、「不妊治療をすると双子が産まれる」という認識を植え付ける結果となったのです。


双子あるあるについてはこちら。

 

なぜ複数胚移植が行われていたの?

体外受精や顕微鏡受精で妊娠が不成立になる主な原因は「受精卵の生命力」「子宮内部の環境」と言われています。

その中でも特に、受精卵 = 胚の質が要因の7~8割を占めていると考えられているため、できるだけ良質な胚を選ぶために、胚培養の段階で胚の評価であるグレード判定を行います。

胚のグレードとは、基本的に培養時の「胚分割のスピードの速さ」「見た目の良さ」で決定されます。


しかし、実はそれだけでは「受精卵の生命力」… つまり「着床しない」もしくは「流産になる」運命をもっている胚かどうかまでは判定できません。

いくら胚の見た目が均一に整っていて、成長がスムーズでも、妊娠するかどうかは子宮に戻してみない事には分からないのです。


そこで、まずは月経時から採卵までの間、ほぼ毎日排卵誘発剤の注射を行い、卵胞を複数発育させ、できるだけ多くの受精卵を採卵します。

そして複数個
の胚を子宮に戻すことで「妊娠する確率を上げる」という方法をとるのが一般的でした。

これは日本に限った話ではなく、世界中の国でも同じ事が行われていたそうです。


着床率や受精卵のグレードについて詳しくはこちら。

 

なぜ複数胚移植で多胎妊娠になると危険なの?

多胎妊娠は医学的には「異常妊娠」とされていて、通常の単胎妊娠に比べると、あらゆるリスクが上がります。

それは妊娠中における母体の合併症胎児の異変だけではなく、早産や未熟児による新生児疾患、乳幼児・幼児、場合によってはもっと長期間の成育過程にも影を落とす可能性があるのです。


多胎育児家庭のリスク
多胎育児は、身体的・精神的・社会的負担が複合的で、単胎児育児と比較にならないほど困難で重大な問題を抱えるケースが多いとの報告が多数を占めている。

  • 育児不安
  • 育児困難
  • 産後うつ
  • 児童虐待 など



複数胚移植の手術における「直接的なリスク」ではなく、その結果として多胎妊娠になる確率が上がり、母子ともに危険にされされることが「最大のリスク」と考えられています。

生殖補助医療という医療行為が原因の「合併症」である多胎妊娠が多発したことで、早産や未熟児の出生数増加、それによるNICUの慢性的不足など、妊産褥婦・胎児・新生児を対象にする周産期医療にかなりのダメージを与えました。


双子妊娠についてはこちら。


異常妊娠の確率も上がる

自然妊娠と同様、体外受精や顕微鏡受精でも異常妊娠(流産や子宮外妊娠など)は起こりえます。

例えば、子宮外妊娠の発生率は卵管に損傷がある女性の場合で、約4~5%です。

胚移植の手術で確実に胚が子宮に挿入されても、胚が移動して卵管に着床する可能性は同じように残されるのです。


また、体外受精での流産率は約20~25%で、自然妊娠での流産率の約10~15%と比べると高くなります。

これは統計上の対象者の加齢の問題で、自然妊娠の女性の年齢と比べ、生殖補助医療(ART)で妊娠した女性のほうが平均年齢が高いためと考えられています。(年齢とともに流産の確率は高くなる)


着床時のリスクについてはこちら。


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体外受精の最大のリスクは多胎妊娠

多胎妊娠を減少させるためには、移植する胚の数を1つに限る単胚移植(Single Embryo Transfer:SET)にすれば良い、というのは明らかです。

しかし、そうすると妊娠率が落ちてしまうことが懸念されました。

妊娠できないことよりも、例え多胎妊娠であっても「妊娠できる」ことが優先されていたため、なかなか単胚移植は浸透しなかったのです。

世界中で社会問題となっていた多胎妊娠の増加は、北欧でのある「ランダム化比較試験」によって歯止めがかかる事となります。

最終的なARTの妊娠率や生産分娩率は有意差なし

2004年、北欧で体外受精や顕微鏡受精などによる生殖補助医療(ART)で、客観的に治療効果を評価するための大規模な研究試験が行われました。

ひとつの胚を移植のケースと、移植胚数を2個にするケースでの
妊娠率や生産分娩率を比較したものになります。

  • 妊娠率 … 着床して妊娠する確率
  • 生産分娩率 … 妊娠を継続して分娩まで至った確率



単胚移植

  • 新鮮胚移植周期のみの生産分娩率は低くなる
  • その後の凍結胚移植による妊娠を含めて考えると、生産分娩率の差は無くなる



多胎妊娠率

  • 移植胚数を2個の場合 …33.1%
  • 移植胚数を1個の場合 …  0.8%



双子妊娠のリスクについてはこちらも。


単胚移植と複数胚移植の比較実験の結果

他にも、スェーデンでは2003年よりひとつの胚を移植することを義務付けられましたが、それによる生殖補助医療(ART)の妊娠率、生産分娩率はまったく低下しなかったことが報告されています。

つまり、一回だけの確率を見れば妊娠率は下がりますが、一定回数の胚移植を行うことで、あるカップルの「生児を獲得する確率」は変わらなかったということです。


妊娠の成功率は1周期あたり約25~30%で、胚移植の1/4が妊娠するとされています。

単純に考えて、生殖補助医療(ART)の4周期までの累積妊娠率は約50~60%になり、それは複数胚移植の妊娠率と変わらなくなります。


また、生殖補助医療(ART)での妊娠例の約80%は、最初の4回までの胚移植で達成されています。

総合して考えると、複数胚移植による合併症(多胎妊娠)による長期的なリスクを背負うよりも、単胚移植を行った方が安全に生児を獲得できると考えられるようになりました。


双子妊娠のリスクについてはこちらも。


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単胚移植の推進が世界的なスタンダードへ

このような結果を受け、多胎妊娠による医療コストの増大などが社会問題となっていたこともあって、医療行為である不妊治療が原因の多胎妊娠はできるだけ減らす方が良いという方針が世界的に普及していきます。

そして2008年に、日本産婦人科学会でも「生殖補助医療における多胎妊娠防止に関する見解」を改訂しました。

多胎妊娠の大部分は、1回目または2回目の胚移植で成立した妊娠で発生していることから、移植する胚の数の上限を段階的に設けたのです。

以下は現在まで採用されているものになります。


単胚移植を原則とする改訂
  1. 生殖補助医療の胚移植において、移植する胚は原則として単一とする
  2. ただし35歳以上の女性、または2回以上続けて妊娠不成立であった女性などについては、2胚移植を許容する
  3. 治療を受ける夫婦に対しては、移植しない胚を後の治療周期で利用するために凍結保存する技術のあることを、必ず提示しなければならない


生殖補助医療(ART)でのリスクについてはこちら。

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現在の不妊治療における双子の確率は?

現在は、比較的「受精卵の着床率が高い」と考えられる場合は、まず単胚移植からチャレンジすることが推奨されるようになりました。

また、ガラス化法という胚の生存率が高い凍結方法も普及したことで、凍結胚移植であっても妊娠率が落ちることもなくなりました。

そのため、(多く採卵して胚まで成長できた場合は)複数回にわたって「胚移植のベストな時期」を見極めることも可能になり、最大限「良質な胚」と最適な「子宮内膜のタイミング」を組み合わせる努力が現在も行われています。

このようにして不妊治療の現場では、生殖補助医療(ART)で胎内に戻す胚の数を減らす方向へと順調に進んでいったのでした。


凍結胚移植についてはこちら。


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一般不妊治療の多胎妊娠

現在では、体外受精や顕微鏡受精などによる生殖補助医療(ART)での多胎妊娠率は約3~5%と低下しています。

しかし、それ以外の排卵誘発剤を使用した「一般不妊治療」での多胎妊娠率は変わらず存在しています。

少子化で総出生数は減っているのに、多胎妊娠の出生数は横ばいであることから、実は相当数の多胎妊娠が一般不妊治療で発生していると示唆されます。

自然妊娠では双子の可能性は0.6%


「クロミッド」などの内服薬、「ゴナドトロピン」製剤などの注射による排卵誘発剤の投与で、2個以上の卵子が排卵される頻度が増えるために、タイミング法であっても、双子や三つ子を妊娠する確率が上がるのです。


タイミング法についてはこちら。


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一般不妊治療での双子の割合は把握しきれていない

体外受精や顕微鏡受精などによる生殖補助医療(ART)に関しては、様々なデータが取られていますが、一般不妊治療についてはその全貌は把握しきれていません。

厚生省による人口動態統計(2015年)のデータによると、約100組に1組の割合で双子が誕生しています。つまり新生児50人につき1人(2%)は多胎児であるということです。

日本では、自然妊娠の双子の発生率が0.6%と言われているので、その発生率は依然として高いままになっています。


分析の結果を見ると、不妊治療に限っていえば、大部分の年において多胎出生は一般不妊治療の方が、ARTよりも多いと推定されます。

不妊治療による多胎というとどうしてもARTばかりが注目されがちですが、現実には一般不妊治療の影響が無視できないということです。

(中略)2010年現在、不妊治療中の60~65%程度が一般不妊治療によるものと推定されます。

つまり、単一胚移植が確実な効果を見せている現在、不妊治療による多胎妊娠の予防は、適切な一般不妊治療の問題へと変わりつつあるといってもよいでしょう。


双子が産まれる確率が高い都道府県は?

都道府県別の多胎出生割合をまとめた資料があったので、抜粋してご紹介します。(参照:多胎児家庭の育児支援に役立つ図と表

平成27年のデータで、出生1000件に対しての割合になります。

多胎出生割合が高い県トップ5

  1. 香川県 26.3%
  2. 新潟県 24.4%
  3. 島根県 24.3%
  4. 栃木県 22.3%
  5. 高知県 21.8%

 

多胎出生割合が低い県トップ5

  1. 秋田県 14.3%
  2. 宮城県 15.1%
  3. 佐賀県 15.1%
  4. 和歌山 16.2%
  5. 沖縄県 16.6%



ちなみに東京は20.0%でした。

この統計で面白かったのは、過去10年間の多胎出生割合を表にしてみると、比較的どこも「多胎妊娠率が高い県は高いまま」「多胎妊娠率が低い県は低いまま」で推移しているケースが多い点です。

県民性でそうなるのか、はたまたその県に所在する不妊治療の施設数や治療方針、不妊治療を希望する割合が多いかどうかによって、結果が異なるのか。

都道府県別にみると、香川県では双子に遭遇する確率が高くて、秋田県では双子が珍しいということが分かりましたね(´艸`*)


体外受精の次のステップについてはこちら。

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まとめ

  • 胚をふたつ子宮に戻した場合の双子の妊娠率は約25%で、三つ子になる可能性も約3%ある
  • 複数胚移植は合併症である多胎妊娠のリスクが高くなるので、世界的に減少傾向にある
  • ひとつの胚の移植であっても治療を続ければ、妊娠を継続して分娩まで至る確率は複数の場合と相違がない
  • 現在では、排卵誘発剤を使用した「一般不妊治療」での多胎妊娠率の方が高いと推測される

 

というおはなしでした。


不妊治療を進めていると、様々な決断を迫られることがあります。

私のように、手術当日に突然「受精卵のどちらか一方もしくは両方」を選択しなくてはいけなくなるケースも(;´∀`)Oh…Dead or Alive…Choose both…


とはいえ、「妊娠出産」に関して100%ノーリスクは自然妊娠であっても有り得ません。

ただ不妊治療で選んだ方法次第で、少なかったはずのリスクが上がる場合のことを考え、夫婦で話し合う必要があるのは確かです。

そしてその結果、多胎妊娠になったのであれば、すべてを受け止めて立ち向かうほかありません。

正直「かなりしんどい」ですが、周りの協力があればきっと何とかなるなる(*’▽’)

不妊治療の道は険しいさしかありませんが、頑張りましょう!

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