今回は、2回めの凍結胚移植時に「胚の退行変性」が見られたので、そのことについて共有したいと思います。
体外受精で凍結した胎盤胚をホルモン周期で移植すると、妊娠に至るまでの条件を人工的に整えやすいので、妊娠率が高くなると言われています。
しかし、凍結時に胚が何らかのダメージを受けて、凍結前と同じグレードまで回復しない可能性があることをご存知でしょうか。
凍結胚の融解時の失敗の原因や確率、移植前の胚のトラブルがあった場合の選択肢についてまとめました。
目次
体外受精の凍結胚のリスクとは
凍結融解胚の移植が増えている
現在は、「ガラス化法」という凍結技術が開発され、良好胚の場合には融解後の生存率は99%に上ります。
着床条件を整えられることで妊娠率が上がるため、全ての胚を凍結することも珍しくなくなりました。
私が凍結胚移植にした理由はこちら。
実際の凍結胚移植手術の様子と、その結果はこちら。
受精卵の凍結保存は、着床において子宮の状態が不良な場合や、卵巣過剰刺激症候群を避けるため、余剰胚が出た場合に必要な技術になります。
凍結胚の失敗原因① 胚の性質とクリニックの技術
細胞は、その構成成分の 80%が水分であるために、凍結することにより影響を受け、その生存率が低下します。
つまり胚の凍結・融解時には、胚の一部に退行変性が起きてしまうことがあり、そうなると医師判断でキャンセルとなり、移植できなくなる可能性があるのです。
また、–200℃程の液体窒素の中に入れて急速にガラス化するので、凍結する条件によって受精卵のダメージの増加が考えられます。
そのため、受精卵の凍結の技術が完成されていない施設では、その施設の凍結技術水準により、全ての胚を凍結するという判断ができないクリニックもあります。
これらを防ぐために、凍結保護剤を使用しますが、凍結融解の影響を完全になくすことは不可能で、凍結保護剤そのものの影響も考えられるそうです。
凍結胚の失敗原因② 胚のステージ
最初に述べたとおり、良質の胚であればリスクは低いガラス化方ですが、凍結する胚のステージにより、その蘇生率は異なります。
胚の凍結・解凍という操作に対する受精卵(胚)の強さは、受精直後の「前核状態」が一番強く、次いで胚盤胞と言われています。
胞胚腔の水分がより多いと融解後のリスクがより高くなることが分かっているので、胚を凍結する際には、胚の中にある水分をすべて脱水させて凍結します。
胚盤胞になると胚に含まれる水分の量が、4〜8分割細胞に比べ多いので、全ての水分が脱水されずに凍結すると、完全に蘇生が出来なくなります。
4〜8分割細胞までの場合は、きちんとした技術のある施設であれば、ほぼ問題なく戻ると言えるそうです。
ただし、それ以上に分割が進んだ状態で凍結していると蘇生率は除々に下がり、特に長期培養後の拡張期の胚盤胞は明らかに低下してしまいます。
凍結胚の失敗原因③ 胚のグレード
細胞の凍結を行う際、細胞が同じような大きさで均等に位置している場合(4〜8分割細胞)に比べ、拡張胚盤胞のように胚の大部分の構造が大きく異なってくる場合には、細胞の凍結が難しくなります。
胚のグレードが高いものが蘇生率が良いのも、「見た目が良い = 細胞が均等である」からとも言えます。
つまり、凍結胚を融解してからの回復培養の期間で、
- 胚盤胞が完全に拡張し、グレード評価ができる胚(回復群)
- 回復が遅延していて、グレード評価できない胚(収縮中郡)
このように、凍結前と同じように元に戻らず、きちんと回復しない胚が出てきてしまう場合があるのです。
その原因に「胚の質」があります。
実際に、融解前後のグレードによる妊娠率の変化を調べた研究がありました。
方法:2015年1月から2017年12月まで、移植時年齢が39歳以下でHRT周期にて単一融解胚移植を行った612周期を対象とした。(中略)
考察:本検討より、凍結時、融解後にかかわらず胚盤胞のGradeが高くなるにつれて妊娠率が上昇することが示唆された。
さらにGrade 4で完全に回復した胚盤胞と回復が遅延していた胚盤胞の妊娠率に有意差があった。
このことから、凍結をする際はGrade3以上の胚盤胞で行い、それに加えて、融解胚移植の際はGrade3以上の完全に回復した胚盤胞を移植することが望ましいと考えられる。
今後は凍結時に胚盤胞がGrade3以上になるまで待って凍結することまた、融解胚移植時に収縮中の胚盤胞は、回復培養時間を延長して胚盤胞がGrade3以上に回復するのを見極めた後に胚移植をすることによって妊娠率が改善するか検討をしていきたい。
この結果が示すように、退行変性が発生する確率は、胚のグレードが低いほど高くなるため、凍結胚はある程度良好なグレードでなければなりません。
つまり、「全ての胚は凍結した方が良い」というわけではなく、凍結に向かない胚は採卵周期の移植で試してみるか、移植に向かないものであればキャンセルになる可能性もあるのです。
D以下のグレードの胚を凍結しないのは、こうした理由からだったんですね。
凍結胚の移植って結局どうなの?
同じように凍結胚の「ガラス化方」も、万人に適しているわけではありません。
初期胚のグレードが低い胚で新鮮胚移植し、出産に至るケースもあれば、胚胎盤をガラス化せずに出産に至ったケースももちろんあります。
ホルモンによる子宮内膜の状態と、受精卵の生命力が噛み合って初めて妊娠に至るわけですが、そこに至るまでの経緯は個人個人によって千差万別で、「確実」で「正しい」マニュアルはないのが不妊治療と言えます。
着床率についてはこちら。
胚のグレードが低めの私に降りかかった融解の失敗
胚移植前のホルモン検査
9/29 オール自費で、33,300円 。
9月になって4回め、全体で28回めの来院です。
ホルモン値の検査結果
エストロゲン(卵胞ホルモン)
【基準値】
卵胞期 25~195 pg/ml
排卵期 66~411 pg/ml
黄体期 40~261 pg/ml
352.1 pg/ml だったので、今回も基準値以上でした。
プロゲステロン(黄体ホルモン)
【基準値】
卵胞期 0.2~1.5 ng/ml
排卵期 0.8~3.0 ng/ml
黄体期 1.7~27.0 ng/ml(妊娠後は更に上昇)
私は 0.33 ng/ml だったので、今回も基準値以下です(´;ω;`)
前と同様、経口薬と膣剤で、黄体ホルモンをさらに補充していきます。
前回の結果とホルモン治療の様子はこちら。
2回めの胚移植の当日の様子
10/5 2回めの移植日を迎えました。
前回が 8/31 だったので、1ヶ月ちょっと経ったことになります。
全体で29回め、手術代込みで 74,240円 。
前回で手術自体はそんなに時間がかからないことが分かったので、今回は朝イチに予約し、そのまま仕事に直行する予定でした。
しかしここで思いもよらない事態になったのです。。。!
胚の融解遅延の報告は突然に
受付をすませると、すぐに2階に呼ばれました。
と思っていると、処置室ではなく、面談ルームへ案内されます。
テーブルには胚の写真と、保存菅やカルテが置かれていて、培養士さんがいました。
そこで宣告があったのは、
- 今回移植予定だった、4BC の胚が融解後に分割が停滞している
- このまま移植した場合、それ以上の成長が行われない = 妊娠に至らない可能性がある
なんと胚の融解時のトラブルでした。。。
胚の融解に失敗(遅延)があった場合の選択肢とは?
ってことは、今日の移植も無し??
えぇえ〜〜〜!? (゚Д゚≡゚д゚)
考えてもみなかったことだったので、頭の中が軽くパニックになります。
そこでの培養土さんの提案は3つありました。
- 今回の胚はキャンセルし、次の胚を移植
- このまま移植する
- 次の予定だった胚を解凍し、今回の胚と同時に2つ戻す
前述したとおり、凍結した胚盤胞は一旦収縮し、解凍した回復培養期に再拡張しながら元にもどります。
再拡張の程度の評価については、解凍後の経過によるものなで、あくまでも現時点での判断となり、一概に「ぜったい妊娠に至らない」というわけではなく、子宮の中で成長が再開される場合もあるそうです。
つまり今回の胚は、このクリニックでの「解凍後◯時間くらいまでに拡張し、回復するのが望ましい」という通常の標準的な経過をたどらなかっただけで、完全に駄目な訳ではないようです。
ただ確率としては低くなるので、一回にかかる手術代金が変わらないことを考えると、同時期にもう1つの胚を戻すのもひとつの手だということらしい。
その場合は解凍に数時間かかるので、予約時間の朝イチの手術ではなく、午後以降の施術になるそうです。
3つの選択肢を前に、とりあえず主人に報告
このあとは仕事が待っているので、超頑張ったとしても一番遅い時間に間に合うかどうか。。。
いや、そもそも①〜③までどうするのか決めなくてはいけません。
不安と焦りで、いっぱいいっぱいです(/ω\)
こういう時、主人が隣に居てくれていれば!
と悔やみますが、とりあえず急いでLINEで報告しました。
常日頃のレスポンスが良い方とは言え、仕事中なので、返事が来るかは一種の賭け(~_~;)
培養士さんには、「主人と相談してから決めるので、少し待ってください」とお願いして、30分ほどお時間を頂きました。
今回の胚について思いを巡らせる
今日、手術する予定だった卵は、胎盤胚まで成長した3つのうち、2番目に良かったグレードのもの。
先生判断でのキャンセルがない限り、せっかく頑張って受精してくれたのに、「廃棄」にしたいとは心情的に思えません。
とは言え、手術代も高額で、結果がわかるまで1ヶ月の期間がかかり、その間の投薬や手術による金銭的・肉体的負担を考えると「とりあえずダメもとで」と簡単には決められない話です。
LINEが既読になるまで、こんなに長く感じたことはありませんでした。。。( ; ; )
私たちが出した結論とは?
連絡がすぐついた事に、ひとまずホッとします(;・∀・)
ザッと説明した結果、主人は③の今回の胚と次回予定だった胚の2つの胚を戻すのが良いんじゃないかということ。
私も②の停滞中の胚だけ戻すか、③の2つの胚を戻す のどちらかが良いと思っていたので、すぐに意見は一致しました!
さっそく培養士さんに③になった旨を伝えて、その日の一番遅い時間に予約を取り直すことに。
むりやり気持ちを切り替える!
頭が痛い話ですが、直近の手術が可能な日にちも仕事のアポで埋まっていたので、どうしても今日中でなければ予定と合わなそう。
もしかしたら遅れてしまうかもしれないと言うと、事態がイレギュラーだったせいか、「多少だったら大丈夫ですよ〜」と言って下さり、一安心しました(;^_^A
想定外の事態に大わらわでしたが、こうしてクリニックを後にし、モーレツに仕事をこなし、ヘロヘロになりながら2回目の凍結胚移植に挑むことになったのです。
まとめ
- 体外受精は凍結融解胚を使うことで着床率が上がるが、解凍時に胚へのダメージが考えられる
- 施設の技術や、胚の性質、グレードによって影響が出る変化率は異なるので、良質な胚であることが必要
- Bグレードだった私は、凍結胚の解凍時トラブルで、「2つの胚」を戻すことになりました
凍結融解胚は生存率も高く、着床率もよいので、スタンダードになりつつあります。
しかしここで述べたようなリスクがゼロになることはありません。
移植自体がキャンセルになる可能性もあるということも、忘れないでおく必要があると思いました。
もしこれから凍結胚の移植を選択される場合は、いつ融解時のトラブルが起こって、私のような判断を迫られるかもわかりません。
その時のシュミレーションにお役立ちできればと思います。
この時は思いもしてなかったのです。。。(^_^;)