緊急性の高い切迫流産や切迫早産の症状があると開始されるウテメリン点滴。
ウテメリンの効果や、持続時間、点滴に使用される機械についてなど、素朴な疑問をまとめました。
また、初めての管理入院で24時間のウテメリン点滴が始まった際の副作用の症状と、2回めの管理入院で長期的なウテメリン点滴の結果起こった副作用の症状を一例として記します。
張り止めとして広く使われているリトドリンの安全性と有効性、リトドリンによる母体への重大な副作用と胎児への悪影響について詳しく調べたので、参考にしてください!
目次
ウテメリン点滴とは
双子妊娠で切迫流産と診断され、緊急管理入院となった私。
初めてのウテメリン点滴の洗礼には泣かされました(´;ω;`)
ウテメリン点滴の効果
緊急に治療を必要とする切迫流産・切迫早産の対処療法に適用されている点滴です。
早産の妊娠週数が、新生児死亡や脳性麻痺などに関連することが知られており、早産を防ぐことは赤ちゃんの健康のためにも重要な課題になっています。
そのため、日本では切迫早産の治療として、子宮収縮抑制薬を用いた薬物治療が広く行われています。
早産のリスクにつてはこちら。
成分名はリトドリン
ウテメリンは商品名で、成分名はリトドリン塩酸塩といいます。
ウテメリンのほかにも後発医薬品のジェネリック薬10社以上から出ています。
塩酸リトドリンは、β2刺激薬という薬の一種で、本来は喘息の薬です。
子宮を収縮させるのは平滑筋という筋肉で、この筋肉にある交感神経のβ受容体を刺激することで、筋肉の収縮(張り)をおさえます。
管理入院初日の様子についてはこちら。
ウテメリン点滴の禁止事項
以下の疾患があると副作用のリスクが上がるため、使用が難しいとされています。
- 甲状腺機能亢進症
- 高血圧症
- 心疾患
- 糖尿病(糖尿病の家族歴)
- 高血糖
- 肥満(糖尿病の危険因子)
- 肺高血圧症
- 利尿剤との併用(カリウム減少性のもの)
- 筋疾患(筋緊張性ジストロフィーなど)
あくまでも対症療法なので、流産・早産を治す薬ではありません。
疾病の原因に対してではなく、主要な症状を軽減するための治療で、子宮収縮の悪化を防ぎ、治癒を促進するものになります。
ウテメリン点滴の副作用
妊娠中期、管理入院前にウテメリンの錠剤を1日3回、毎食後に1週間服用していたことがあります。
その時は心身ともに疲れていたのと、入院宣告を受けて混乱していたせいもあって、ウテメリンの副作用なのか自身の不調なのか。。。といった感じでした。
しかし点滴になるとダイレクトに血管から入っていくせいか、副作用が予想以上に大変だったのです。
管理入院で誰もが通るウテメリンの副作用には、以下のようなものがあげられます。
え、こんなに? といった感じでしょうか。
実はこれも副作用の抜粋で、私が入院中に大なり小なり感じたことのあるものだけを書き出しました。
感じ方は人それぞれで、ここにあげられていない症状で悩む方もいらっしゃると思います。
ウテメリン点滴の副作用には個人差がある
実際、入院生活が長くなればなるほど、ウテメリンの継続日数が長くなり、いろいろな症状に悩まされました。
短期間で済んだ方や、量が少ない方、錠剤で済んだ方などは、そこまで酷くならないかもしれません。
また、妊娠中に起こるマイナートラブルとも重なって、果たしてどこまでがウテメリンの副作用なのか、はっきりとわからない症状もありました。
ただひとつ言えるのは、ウテメリンを使わなくていいのなら、絶対に使いたくない!ということ。
それくらい、この副作用はつらいものでした。
マイナートラブルについてはこちら。
管理入院中のウテメリン点滴の量
- オリゴ糖500ml(100cal)に対し、ウテメリン50ml
- 1時間に30ml
- 約18時間毎の交換
これは初期の一般的な処方で、初めて入院する方は様子見もかねて、このくらいの量から始まるのではないでしょうか。
ここから増えたり減ったり。。。
点滴の機械や袋に数値が書いてあるので、一目瞭然で「張りの具合」がわかります。
張りについてはこちら。
点滴の機械「輸血ポンプ」で薬剤の量がわかる
血管の状態に関係なく、一定量を投与してくれる輸液ポンプ。
管理入院中はどこまでもついてきます(^^;
シャワーの時だけは外しますが、寝ている時も給水室やトイレまで点滴台と一緒です。
患者の血管の状態に左右されず輸液されるメリットの半面、留置針が血管壁を突き破っていて血管から漏れ出ていた場合でも、点滴は同ペースで落ちていってしまいます。
点滴を刺した時の異常を教えてくれる機能はないので、点滴を付け替えた時は、必ず発赤や腫脹や疼痛がないかの確認をしましょう。
点滴の針が痛くて内出血する場合も
点滴は手の甲に近いほど痛みが強くなるのですが、長期間の管理入院で刺せるところがなくなり、手の甲につけざるを得なかったときは最悪でした。。。
留置針を指した場所が悪かった時などは、食事や睡眠時に体位変換等を行った際に、留置針が曲がって「閉塞アラーム」が鳴り響くことも多々あります。
点滴とにかく点滴は管理入院中の「ストレスの源である」と断言できますね(´・_・`)
ウテメリン点滴についてはこちらも。
ウテメリン点滴の効果が持続する時間
実際投与し始めてどれくらいで効果が表れ、また半減するのでしょうか。
以下は、ウテメリンの送付文書情報の抜粋です。
本剤を健康成人に注入薬量100μg/分で1時間点滴静注した際,投与開始から48時間以内に投与量の50%が尿中に排泄され,そのほとんどは12時間以内に排泄された。
ウテメリンの薬物動態(投与されてから排泄されるまでの過程)
★最高血中濃度到達時間 (Tmax)
最高血中濃度に達成するまでの時間…0.67hr = 約40分
★半減期 (T1/2)
最高血中濃度に達成してから半減するまでの時間…0.15~4.66hr = 約9~280分
「健康成人5例に注入薬量100μg /分で1時間点滴静注した際」のデータなので、ばらつきがありますな。。。(;^ω^)
血中濃度が半分になるまでは、長くもっても4~5時間くらいということなので、ウテメリン点滴を止めた場合は、半日後には子宮収縮が強くなる可能性があると言えますね。
看護ミスでウテメリン点滴が停止してた事件はこちら。
ウテメリン点滴はいつまで?
基本的に、張りが治まったと判断されない限りは出産間近になるまで継続です。
ただし、管理入院から自宅安静に切り替わって、退院できそうなときは徐々に減らして行き、最後に錠剤に切り替えて様子を見るかたちになります。
逆に張りが抑えられないときは、徐々に濃度が増えていき、それでもダメなときは「より強い薬」に切り替わることも。
当然ですが、強い薬はそのぶん副作用も強くなります。
ウテメリンでも十分強く感じる副作用。
できることなら最後まで、ウテメリンで抑えられたらいいですよね(>_<)
自宅安静と一時退院の様子についてはこちら。
入院初日から感じたウテメリン点滴の副作用
錠剤でも多少感じていましたが、即効性の高い点滴ではウテメリンの副作用がより顕著にでます(’A`|||)
そのせいか、入院初日から感じる異変も多くあります。
それはずばり、動悸・手の震え・ 発熱(顔面潮紅)・ 頭痛 です!
ウテメリン点滴の副作用① 動悸、吐き気
入院中は動けないので、ベットの上でゴロゴロしていることが多いのですが、横になっていても走った後の様に心臓がドキドキするのです。
時には、ドッキンドッキンと大きく感じる時もあって、初めはその異変がまさか自分の動悸だとは思わず、これは胎動か? と思ったほど。
その時はまだ胎動を感じた事が無かったのでそう思ったのですが、実際の胎動とは全然違かったので、経験者なら違いはがわかると思います(^^;
また「なんか気持ち悪い…」といった吐き気を覚えることも。
実際に吐くまではいきませんが、何とも言えない不快感を感じました。
ウテメリン点滴の副作用② 手の震え
私の場合、手の震えは初期のほうが強く感じました。
どれくらい酷かったかというと、手の震えで写メがうまく撮れないくらい!
まるで何かの禁断症状のようで「一体どうなっちゃったの?!」と、恐ろしくなったことを覚えています。
お箸が上手に扱えず、スプーンを貸してもらうこともありました。
病院食についてはこちら。
ウテメリン点滴の副作用③ 発熱、顔が熱い、発汗
病院内はもともと高めの温度設定とはいえ、冷え性で寒がりの私が暖房もつけず、顔は赤く汗ばむほどでした。
もともとの体温は低めだったのに、入院中は37度前後を行ったり来たり。
高いときは38度手前まで行くこともありました。
他にも風邪のような症状もあったので、風邪のための発熱なのか、副作用での発熱なのか、はたまた合わせ技なのか、最後までよくわかりませんでした(;´・ω・)
発熱についてはこちら。
ウテメリン点滴の副作用④ 頭痛
じっとしていても頭が痛くて我慢できないほどの時もあれば、じくじくと地味に続く頭痛まで。
一日中すっきり頭が冴えわたっている! という日なんて、一日もなかったと思います。
私の場合は、冷えピタをすると症状が和らいだ気がしたので、冷えピタは手放せませんでしたね。
あんまりひどければ薬を処方してもらって痛み止めの服用もしましたが、年中飲むわけにもいかないので、基本的には我慢。
ヘモグロビン値が下がってしまっていたので、副作用による貧血もあったのかもしれません。
貧血についてはこちら。
長期間のリトドリン投与で現れた副作用
一時退院した後も錠剤でウテメリンは継続し、切迫早産による2度目の管理入院でもウテメリン投与は続きます。
まさに薬漬け!
前途は初日から感じられた副作用でしたが、ここからは長期投与で現れた副作用をまとめました。
ウテメリン錠剤と再入院の様子についてはこちら。
リトドリンの副作用① 血管痛・静脈炎
これは当初からありましたが、2週間を超えてくるとより顕著になります。
2回めの管理入院で10週間にわたりウテメリン投与が続くと、最終的には血管が脆く硬くなり、どこに刺してもすぐに漏れてしまって、刺し痕が色濃く残り、盛り上がってしまうようになりました。
- 点滴の針が入っている所の周辺やその腕の赤み、痛み、違和感、腫れ
- 点滴終了後の血管のつっぱり感・硬くなる・赤み・色が変わる(色素沈着)
両腕で50か所以上このような痕が残り、まるで薬物依存者のようです。
帝王切開時には手術用の点滴ルートが腕では確保できずに、最終的に一番痛いとされる手の甲に何度も刺されて、失敗を繰り返すという生き地獄。。。
本当につらかった(;_;)
静脈炎についてはこちら。
リトドリンの副作用② 肝機能障害
こちらも2回めの管理入院の後半で、「出産後も退院できないかも」といわれるほどに肝臓の数値が上昇してしまいました。
肝臓の主な働きは、代謝と解毒です。
肝臓は薬剤を分解し処理する働きがありますが、リトドリンの長期投与により、この働きがうまく機能せずに薬物性の肝機能障害になるケースがあります。
薬物性の肝機能障害とは
薬物性の肝機能障害は、進行すると重篤な肝不全の状態になることがあります。
しかし沈黙の臓器といわれるだけあって、症状が出るよりも前に血液検査の異常で判明することが多いようです。
- ALT(アラニンアミノトランスフェラーゼ)
- AST(アスパラギン酸アミノトランスフェラーゼ)
- γ-GTP(γ-グルタミルトランスフェラーゼ)
★AST(GOT) 、ALT(GPT)
肝臓の細胞に多く含まれ、細胞が壊れたときに血液中に出てくる酵素。
この値が高いことは肝臓の細胞が壊れていることを示します。
★AST/ALT比
2つの酵素のそれぞれの値でどちらがより高いかをみます。
- AST値よりALT値が高い場合は慢性肝炎
- ALT値よりもAST値が高い場合は、肝硬変、肝がん
- ASTだけが高い場合は心筋梗塞など肝臓以外の病気
★γ-GTP
主にアルコール性肝障害の指標で、胆汁の流れが悪いときにも上昇します。
- 身体の怠さ
- 食欲不振
- 風邪に似た症状
- 黄疸(全身の皮膚や粘膜に過剰に色素が沈着した状態)
- 腹水
- 意識が低下する
特に感じたのは、体のだるさと風邪に似た症状(微熱・頭痛)です。
妊娠後期ということもあって、もともとそのような症状はあったので、ウテメリンの副作用の影響も含めて複合的な要因が合わさって、超絶不調な状態をただ耐えるしかありませんでした。
リトドリンの副作用③ かゆみ
これもつらい症状でした。
点滴の留置針の痕がムズムズするのか、肌が過敏になっているのか分かりませんが、全身かゆくてかゆくて。。。
特に腕と足!
時には腕に謎の発疹が出て、かゆみ止めの塗り薬を処方してもらって塗りたくりましたが、ほぼ効果なし。
結局はリトドリンの長期投与によるアレルギー反応なので、アイスノンで冷やしたりしたりして、だましだまし耐えるしかありませんでした。
ウテメリン点滴の副作用は周囲に伝わりづらい!
何がつらいって、こういった副作用は見た目ではわからないので、周囲に伝わらないことです。
お見舞いに来てくれている家族に、「我慢しているの辛いのーーー!」って毎回訴えるのもどうかと思うし、言われたほうもどうしようもないし。。。
分かってるんだけど痛い。だるい。かゆい。
とにかく不快!!!
と泣きたくなる時がたくさんありました。
このような副作用があってウテメリン点滴は、患者にとってとにかく大変なもの。
さらに妊婦の遺伝的背景や妊娠時のリスク因子によってはさらなる副作用も考えられます。
ウテメリン(リトドリン)の重大な副作用
以下から、医薬品副作用の特徴とリスク因子に関する研究の論文を参考にして、母体と胎児の重大な副作用についてまとめました。
リトドリンによる母体への重篤な副作用のリスク
内服での塩酸リトドリン(β刺激薬)は心血管系のリスクなど「非常に重く、生命に危険が及ぶ副作用」「多種多様な副作用」の報告があり、社会問題となりました。
十分なエビデンスもなく副作用が強いことから、欧米諸国では以下のような扱いになっています。
- 米国食品医薬品局(FDA)
- 欧州医薬品庁(EMA)
- 英国NICEのガイドライン
- WHOの勧告
このように欧米ではリトドリンによる子宮収縮抑制法自体に否定的なのです。
以下にウテメリン投与による重い副作用で、比較的多い症例3つをあげていきます。
リトドリンの副作用① 肺水腫
肺水腫とは、肺胞内に液体成分が貯留することで、酸素と二酸化炭素のガス交換ができなくなった結果、全身の低酸素状態や呼吸困難を引き起こす疾患.。
- 呼吸困難、胸部圧迫感、咳嗽、頻脈、低酸素血症、急性心不全との合併症状
- リトドリンにより体内の水分貯留が起こり、肺水腫が起こりやすくなる
- リトドリンの心筋への作用で、心臓への負荷が増大し、呼吸状態の悪化につながる
- 多胎妊娠
- 心疾患
- 妊娠高血圧症候群の合併
- 糖尿病(糖尿病の家族歴)
- 肥満(糖尿病の危険因子)
- 副腎皮質ホルモン剤(ステロイド)併用
リトドリンの副作用② 白血球減少症
白血球減少症は,循環血中の白血球数が4000/μL未満に減少することで、その結果、一般に免疫機能が低下する疾患。
- 汎血球減少、無顆粒球症、白血球減少、血小板減少
- 切迫早産の炎症(絨毛膜羊膜炎など)で白血球が大量に消費しているケースがある
- リトドリンによる白血球の増殖抑制とあわさって、白血球減症が起こりやすい
- 不妊治療歴
- 多胎妊娠
- 投与7 日以上
- マグネシウム剤の併用
- 最大注入㏿度 200μg/分超過
リトドリンの副作用③ 横紋筋融解症
筋肉をつくっている骨格筋細胞に融解や壊死が起こり、筋肉の成分が血液中に流出してしまう疾患。
- 筋肉痛、脱力感,、CK(CPK)上昇、血中及び尿中ミオグロビン上昇
- リトドリンによる低カリウムで、一時的な筋虚血が引き起こされ、間接的な筋肉損傷が起こるリスクがある
- リトドリンの β 受容体刺激作用は、直接または間接的に筋肉に影響を及ぼしている可能性がある
- 多胎妊娠
- マグネシウム剤の併用
- 利尿剤との併用(カリウム減少性のもの)
- 筋疾患(筋緊張性ジストロフィーなど家族歴含む)
上記以外にも考えられますが、いずれも妊婦のみならず、胎児・新生児にも影響を及ぼす可能性のある重い副作用といえます。
ただし妊婦の遺伝的背景やリスク因子が大きく関わっていることもあり、ウテメリンの投与前にきちんと本人や家族の病歴を伝えることが大切です。
また、早期発見とリトドリンの使用中止で快方に向かう場合が多いそうです。
リトドリンによる胎児への重篤な副作用のリスク
ウテメリンの成分であるリトドリンは、胎児にも移行し、胎児の心血管系に直接作用することが報告されています。
胎児および新生児の循環器障害の一例
★不整脈
胎児の心臓の機能(刺激や伝導路)異常で、心拍数が1 分間に 180 回以上または60 回未満が持続する不整脈が確認されることがある。
★心不全
胎児や新生児の心臓のポンプ機能が低下して、全身の臓器が必要とする血液を十分に送り出せなくなった状態(心不全)があらわれることがある。(特に2週間以上の投与例で多い)
★新生児心室中隔壁の肥大
新生児心室中隔壁の肥大があらわれることがあるが、可逆的(一度起きた変化がまた元に戻ることができる)とされている。
★新生児低血糖
新生児に赤血液中の糖分(ブドウ糖)が少なく、血糖値が低い状態(低血糖)があらわれることがある。
ただし胎児への影響は一過性であることが多いようです。
胎児への副作用の早期発見には、胎児心拍モニタリング(NST検査)による経過観察が重要とされています。
ウテメリンの副作用を常に留意することはもちろん、確認され次第、適切な処置を行うことで軽快していくそうです。
海外におけるウテメリン治療と日本の違い
このように様々な副作用を強いるウテメリン点滴。
日本では主流のリトドリンも、海外ではあまり使われていないのをご存知でしょうか?
(中略)わが国では切迫早産に対して,90%以上の施設が塩酸リトドリンを子宮収縮抑制薬の第一選択薬として使用しています。
一方,米国では,塩酸リトドリンは既に販売されておらず,欧州においても使用頻度はかなり低くなっています。
欧米で塩酸リトドリンの代わりに子宮収縮抑制薬として主に使用されているのは,米国では硫酸マグネシウム,欧州ではカルシウム拮抗薬あるいはオキシトシン拮抗薬(わが国では未販売)です。
(中略)現在,欧米では,頸管長が短縮し規則的な子宮収縮を認めるような切迫早産に対する治療よりも,早産ハイリスク例に対する予防的治療が主流になってきています。
その予防的治療の主流はプロゲステロン製剤であり,早産既往症例に対する17α-hydroxyprogesterone caproateと妊娠24週までの子宮頸管長短縮症例に対するプロゲステロン腟錠あるいは腟ゲルが用いられています。
前者はわが国でも以前から使用されていた薬剤ですが,後者は現在わが国では保険適用がなく,今後早産予防に適応が認められることが期待されます。
上記のサイトによると、欧米で主に行われている子宮収縮抑制法は、以下のような短いスパンでの使用になります。
- 肺成熟を促すためのステロイドの効果が現れる48時間まで
- 母体を高次施設に搬送するまでの間のみ
なぜ海外と日本でこうも対応に差があるのでしょうか?
ウテメリンによる長期間の子宮収縮抑制の効果はない?
妊娠中や出産後の母体、
逆に「子宮収縮抑制法の効果は48時間に限られる」というエビデンスはあるため、欧米では短期間の治療にのみ使用されているのです。
つまり長期間にわたる塩酸リトドリン(β刺激薬)投薬で、「早産を防いだり、新生児の予後を良い方向に導く効果はない」と判断されているわけですね。
日本で多くの病院で行われている切迫流産や切迫早産の治療を、根本から否定するものです(;^ω^)ナンテコッタイ
なぜ日本ではウテメリンの長期投与が主流になっているのか
欧米で使用制限のあるリトドリン製剤が日本で使われている理由は2つあります。
①医療環境や治療目標の違いで、使用基準が異なっていた
英国の切迫早産治療ガイドライン 及び欧州各国のリトドリン製剤の「医療用医薬品添付文書」を比較検討した結果、使用方法が異なることがわかりました。
そのため、日本での従来の使用方法であればリスクは少ないと判断され、「添付文書に基づいた適正使用を推奨すること」との注意喚起をするの留まったのです。
②日本での多施設共同調査の結果
リトドリンの臨床による早産予防の有効性が認められたとして、リトドリンの適応、使用法は変更されることはありませんでした。
切迫早産に対する緊急処置として使用できる薬が他になく、「選択肢がないから」「保険適用になっているから」という理由で、多くの産科で第一選択薬として使用されています。
今後のウテメリン点滴の治療はどうなる?
long term tocolysis(長期間の子宮収縮抑制法)が早産を防ぐことおよび新生児の予後の改善に有効であることに関するエビデンスはほとんどありません。(中略)
昭和大学病院では、2014年1月以降は規則的な子宮収縮があり、かつ子宮口の開大または頸管長の短縮が観察される場合にのみ切迫早産と診断するという定義を明確化して共有することと、25週以降は48時間に限定した子宮収縮抑制薬を投与するプロトコールを採用しました。(中略)
平均分娩週数は38週で差はなく、37週未満の早産数(182 vs 153)、28週未満の早産数(20 vs 17)に有意な変化も観察されませんでした。また、NICU入院数(137 vs 129)にも差がなく、NICUのベッド占有率の増加などの影響は起こりませんでした。(中略)
一方、塩酸リトドリンの使用実態と副作用の調査を2015年に日本周産期・新生児医学会が行い、有害事象の内容は、肝機能障害が43例、横紋筋融解症が30例、肺水腫・顆粒球減少症がそれぞれ25例などであり、おそらく一般産科医の認識以上に有害事象が高頻度に発生していることが示されています。
このような臨床結果が出ていることもあり、日本でも将来的にリトドリンの投与について再検討されることも予想されます。
- 外来で子宮収縮を訴える妊婦に、予防の意味で安易に塩酸リトドリン内服錠を長期的に処方すること
- 切迫早産の診断で子宮収縮や子宮口の開大などの所見がない場合に、塩酸リトドリンや硫酸マグネシウムを投与すること
- 切迫早産と診断された妊婦に子宮収縮抑制薬を長期投与すること
今後は、最後の切り札という位置づけで、上記のような長期的な投与は減少していくかもしれません。
まとめ
- ウテメリンの副作用は、期間や量、個人差などがあり、誰もが同じように感じるわけではないが、つらいのは一緒
- 長期間の投薬やリスク因子がある場合は、きちんとした施設で腕のいい医師にかかるべし!
- リトドリンは「子宮収縮抑制薬」であって、予防薬ではないと理解しよう
というおはなしでした。
ウテメリンの長期投与については世界で賛否が分かれますが、日本での切迫流早産の治療法として、厳重な管理のもと入院処置での第一選択肢になっている現状があります。
そのため、副作用がつらくても(重大な疾患が現れない限り)赤ちゃんのため、切迫症状や張りがあるうちはウテメリン点滴をやめられません。
ただ自分の辛さの原因が「何か」を知って、どんな症状があるのかを理解できると、少しだけ気休めになるのではないでしょうか。
自分だけではない、たくさんの妊婦さんたちも同じように耐えているんだ! と思って、一緒に頑張りましょう(´;ω;`)